和歌

「-がほ」を含む歌(19)

題知らず 今はただ心のほかに聞くものを知らずがほなる萩の上風 (式子内親王・新古今和歌集・巻第十四・恋歌四・1309) 今はもうあなたの訪れかどうかなんて心に留めずに聞いているのに、知らん顔で萩の葉を揺らす風よ >「知らずがほ」 >忘れたと思ってい…

「-がほ」を含む歌(17)

女のもとにつかはしける 恨むれど戀ふれどきみが世とゝもにしらず顔にてつれなかるらん (讀人しらず・後撰和歌集・巻第十四・恋六・998) わたしが恨めしく思っても、恋しく思っても、いつもあなたは知らん顔をして冷たいのでしょうね >「しらず顔」 >「…

「-がほ」を含む歌(16)

植ゑて見し花のあるじもなき宿に知らず顔にて来ゐる鶯 (源氏物語・幻) 花を植えて見ていた主ももういない宿に、何も知らない顔でやって来る鶯よ >「知らず顔」 >源氏の歌 和歌引用 阿部秋生・秋山虔・今井源衛・鈴木日出男(1996)『新編日本古典文学全…

「-がほ」を含む歌(15)

心から何恨むらん旅衣たつ日をだにも知らずがほにて (十六夜日記) ご自分の心のせいなのにどうして恨み言をおっしゃるのですか、旅立つ日さえも知らないような顔をして >「知らずがほ」 >式乾門院御匣の歌(以下)への贈答 人間だに袖や濡れまし旅衣たつ…

「-がほ」を含む歌(14)

あひにあひて物思ふころのわが袖に宿る月さへ濡るる顔なる (伊勢・古今和歌集・巻第十五・恋歌五・756) 私の心によく似て、物思いにふける私の袖に映った月までもが涙に濡れたような顔をしていることよ >「濡るる顔」((9)(2020-05-10)山家集284の歌…

「-がほ」を含む歌(13)

月前恋といへる心をよめる 歎けとて月やは物を思はするかこちがほなる我が涙かな (西行・千載和歌集・巻第十五・恋歌五・929) 嘆けと言って月が物思いをさせるのだろうか、そうではないのに、恨みがましく流れる私の涙であることよ >「かこちがほ」 >命…

「-がほ」を含む歌(12)

刈り残す美豆の真菰に隠ろひて影持ちがほに鳴蛙哉 (西行・山家集・雑・1018) 刈り残した美豆の真菰に隠れながら、影(守ってくれるもの)を得たように鳴く蛙かな >「(影)持ちがほ」 >「隠ろふ」(自ハ行四段) 和歌引用 西澤美仁・宇津木言行・久保田…

「-がほ」を含む歌(11)

九月十三夜 今夜はと所得がほに住月の光もてなす草の白露 (西行・山家集・秋・379) 今夜こそはと、地位を得たように澄む月の光に、いっそうの趣を添える草の白露よ >「所得がほ」 >「光もてなす草の白露」を『和歌文学大系』は「草の白露が月の光を引き…

「-がほ」を含む歌(10)

隣の夕の荻の風 あたりまで哀知れともいひがほに荻の音する秋の夕風 (西行・山家集・秋・288) 近所まで「風情を知れ」とでも言いたそうに荻の葉ずれの音を立てる秋の夕風よ >「いひがほ」 >命令表現も含まれている >なんだかすっかり「-がほ」の虜にな…

「-がほ」を含む歌(9)

女郎花水に近しと云ことを 女郎花池の細波に枝漬ちて物思ふ袖の濡るゝがほなり (西行・山家集・秋・284) 女郎花が池のさざ波に枝を濡らして、それはまるで物思いにくれる袖が涙で濡れたようだ >「濡るゝがほ」(連体形+「がほ」) >「漬ちて」(非対格…

「-がほ」を含む歌(8)

花の歌十五首よみけるに 吉野山人に心をつけがほに花より先にかゝる白雲 (西行・山家集・春・143) 吉野山では人に花を待つ心を抱かせるように、花が咲くのに先立ってかかっている白雲よ >「(人に心を)つけがほ」 和歌引用 西澤美仁・宇津木言行・久保田…

「-がほ」を含む歌(7)

夕暮時鳥といふことを 里馴るゝ黄昏時の蜀魂聞かずがほにて又名告らせん (西行・山家集・夏・181) 人里に馴れた黄昏時のほととぎすよ、鳴いた声を聞かなかったふりをしてもう一度名乗らせよう >「聞かずがほ」 >意志・意向の「む」 和歌引用 西澤美仁・…

「-がほ」を含む歌(6)

子規を待ちて明ぬといふことを 時鳥鳴かで明ぬと告げがほに待たれぬ鳥の音ぞ聞こゆなる (西行・山家集・夏・186) ほととぎすが鳴かずに夜が明けてしまったと告げるように、待ちもしない鶏の鳴く声が聞こえてくるよ >「告げがほ」 >「ぬ」の識別の問題に…

「-がほ」を含む歌(5)

蛙 真菅生る山田に水を引すればうれしがほにも鳴蛙かな (西行・山家集・春・167) 真菅の生える田に水を引いたので、嬉しそうに鳴く蛙であることよ >「引す」(まかす) >「うれしがほ」 和歌引用 西澤美仁・宇津木言行・久保田淳(2003)『和歌文学大系2…

「-がほ」を含む歌(4)

数ならぬ身をも心の持ちがほに浮かれてはまた帰り来にけり (西行・新古今和歌集・巻第十八・雑歌下・1748) 取るに足りない身であるのに、人並みの心を持っているような顔をして浮かれ出てはまた草庵に帰って来たことだ >「(心の)持ちがほ」 和歌引用 峯…

「-がほ」を含む歌(3)

百首歌たてまつりける時、蛍の歌とてよめる 昔わが集めしものを思ひ出でて見なれがほにも来るほたるかな (藤原季通・千載和歌集・巻第三・夏・201) 昔わたしが(書を読むために)集めたことを思い出して、昔からの馴染みのようにやってくる蛍であることよ …

「-がほ」を含む歌(2)

身を知れば人の咎とは思はぬに恨みがほにも濡るゝ袖哉 (西行・山家集・恋・680) 自分の身のほどを知っているので、あなたがわたしに冷たいのはあなたのせいではないと分かっているのに、まるであなたを恨むかのように涙で濡れる袖であることよ >新古今和…

「-がほ」を含む歌(1)

立ち替る春を知れとも見せがほに年を隔つる霞成けり (西行・山家集・春・4) 「季節が移り変わり、春が訪れることを知りなさい」とでも言いたそう(見せたそう)に、年を隔てて立っている霞であることよ >命令表現も含まれている。 >新しいテーマは「-が…

春の霞む月(7)

うちなびく春を近みかぬばたまの今夜の月夜霞みたるらむ 右の一首、大蔵大輔甘南備伊香真人 (甘南備伊香真人・萬葉集・巻二十・4489) 春が近いからだろうか、今夜の月は霞んでいるなぁ >枕詞「うちなびく」、「ぬばたまの」 >「ミ語法+か」もアツいか~…

命令表現を含む歌(12)

あらたまの年行き反り春立たばまづ我がやどにうぐひすは鳴け 右の一首、右中弁大伴宿禰家持 (大伴家持・萬葉集・巻二十・4490) 年が改まって春になったら、まず私の家の庭に、うぐいすよ鳴いておくれ >そろそろ次のテーマを導入しますよ… 和歌引用 小島憲…

命令表現を含む歌(11)

返し 頼めおかむたゞさばかりを契にて憂き世の中の夢になしてよ (藤原定家朝臣母・長秋詠藻・中・321) 約束しましょう。ただそればかりを契りとして、あなたの嘆きはつらいこの世の夢と思って下さい >新古今和歌集・恋三 >命令表現を含む歌(10)「よし…

命令表現を含む歌(10)

つれなくのみ見えける女に遣はしける よしさらば後の世とだに頼めおけ辛さにたへぬ身ともこそなれ (俊成・長秋詠藻・中・320) それならばせめて後世で、と約束して下さい。あなたの冷たさに耐えられないで死ぬ身になってしまうと困りますから >新古今和歌…

命令表現を含む歌(9)

摂政太政大臣家百首歌合せつしやうだいじやうだいじんのいへのひやくしゆのうたあはせに、契恋ちぎルこひの心を ただ頼たのめたとへば人のいつはりを重かさねてこそはまたも恨みめ (前大僧正慈円・新古今和歌集・巻第十三・恋歌三・1223) ただ信頼しなさい…

命令表現を含む歌(8)

桜さくらの花散ちれば 待まてといふに散ちらでしとまるものならばなににゝ桜さくらを思おもひまさまし (素性・素性集・10) 「待て」と言うと散らないでとどまるものならば、どうして桜をますます想うことがあろうか >古今和歌集・春歌下(読み人知らず)…

命令表現を含む歌(7)

東風こち吹かばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな (菅原道真・大鏡・左大臣時平) 春の東風が吹いたらその香りを風に託して送ってくれ、梅の花よ、主人がいなくなったといって春を忘れるな >拾遺和歌集・雑春 >命令とか禁止とか、どう扱おう…

命令表現を含む歌(6)

返し あだなりと何かは嘆く色深くのどけき春の形見とを見よ (宰相中将・風葉和歌集・巻第二・春下・90) 「はかない」とどうして嘆く必要がありましょうか、色深くのどかな春の形見として(桜の花を)見て下さい >以下の歌への返し 男の、桜を一枝おこせて…

命令表現を含む歌(5)

寛平御時くわんぴやうのおほんとき后きさいの宮みやの歌合うたあはせの歌 声たえず鳴けや鶯ひととせにふたたびとだに来くべき春かは (藤原興風・古今和歌集・巻第二・春歌下・131) 声を絶やさずに鳴け、鶯よ、一年にせめてもう一度さえ来る春であろうか >…

命令表現を含む歌(4)

遠江守為憲罷下りけるにある所より扇つかはしけるに読る わかれてのよとせの春のはる毎に花の都をおもひおこせよ (藤原道信朝臣・後拾遺和歌集・巻第八・別) 別れてからの4年の(任期の)間の春の、その春が来るたびに花の都を思い出して下さい >春の別離…

命令表現を含む歌(3)

家いへの桜さくらの散ちりて水みづに流ながるゝをよめる こゝに来こぬ人も見みよとて桜花さくらばな水の心にまかせてぞやる (大江嘉言・後拾遺和歌集・巻第二・春下・145) ここに来ない人も見よ、と桜花を水の流れにまかせて流すのだ >毎日何かしら投稿す…

命令表現を含む歌(2)

東山ひがしやまに花見にまかり侍るとて、これかれ誘ひけるを、さしあふことありて留とどまりて申し遣はしける 身はとめつ心は送る山桜風のたよりに思ひおこせよ (安法法師・新古今和歌集・巻第十六・雑歌上・1472) 我が身は留めておいたが、心は送る。山桜…