ふとした瞬間に「あ、もうがんばれないや」と思う。
突然、涙が溢れてくる。
もう何年もずっと背伸びをしながら生きている。
目の前の高い壁を「越えられる越えられる」と自己暗示をかけて
暗闇でも吹雪でも目を瞑って進んできた。
日常は非情だ。記憶は無惨だ。
視界の端に見えた桜が、鼻の先をかすめた金木犀の香りが、
街の喧騒に紛れたあの旋律が
むごい感情を呼び起こし、心をズタズタにしていく。
これでいいのだろうか。
これでいいんだ、これが正解なんだ、恵まれた環境にいるんだ
そういう魔法が解けた時、わたしは暗い深い穴の底で
たったひとりなんだ。