和歌

命令表現を含む歌(1)

春歌中に 花はな散ちらば起おきつゝも見む常つねよりもさやけく照てらせ春はるの夜よの月 (能宣朝臣・万代和歌集・巻第二・春歌下・311) 花が散ってしまうのならば起きたままで見よう、いつもよりも明るく照らせ、春の夜の月よ >能宣集、金葉集初度本・春…

桜と雨と(7)

後朱雀院御時、上の男ども東ひんがし山の花見侍り けるに、雨の降りにければ白河殿にとまりて、 おのおの歌よみ侍りけるによみ侍りける 春雨に散る花見ればかきくらしみぞれし空の心ちこそすれ (大納言長家・千載和歌集・巻第二・春歌下・82) 春の雨に散る…

春の霞む月(6)

花の下(した)にて月を見てよみける 雲にまがふ花の下にて詠(ながむ)れば朧(おぼろ)に月は見みゆるなりけり (西行・山家集・春・90) 雲に見紛う花の下から眺めると、月は朧げに霞んで見えるものだなぁ >これまでと少し違う趣。 >夜、見上げた桜は雲…

春の霞む月(5)

春月 あかずのみ花の匂ひも深ふかき夜の雲井に霞かすむ春の夜の月 (藤原為家・為家卿集・早卒百首四月当日詠㆑之・656) 飽きることのないほどに花の香りも深い夜の、雲の彼方に霞む春の夜の月だなぁ >「雲井に霞む」にぐっと来ました。 和歌引用 山本啓介…

春の霞む月(4)

春月を 霞めるはつらき物から中々〳〵にあはれ知しらるゝ春の夜よの月 (宗尊親王・瓊玉和歌集・巻第一・春歌上・30) 霞んでいるのは恨めしいものだが、かえって趣深く感じられる春の夜の月だなぁ >今日も今日とて霞みます。 和歌引用 山本啓介・佐藤智広…

春の霞む月(3)

春月 八や重へ霞がすみかすめる空そらに小夜さよふけてそれとばかりの面影おもかげの月 (伏見院・伏見院御集・216) 幾重にも連なる霞で霞む空に夜は更けていき、なんとなく分かるほどの面影の月だ >「それとばかりの面影の月」、良いですね。 >このテー…

春の霞む月(2)

我(わが)袖にわきてや月のかすむらん問とはばゝやよその春の習ならひを (幸子内親王・新葉和歌集・巻第一・春歌上・55) 私の袖にとりわけ月が霞んで見えるのだろうか、尋ねてみたいものだ、よその春の習いを >人それぞれ、いろいろな思いで、春の月が霞…

春の霞む月(1)

春月の心を 我(わが)袖に涙もいつか春はるの夜よのかすむを月の習(ならひ)とも見みん (荒木田季長・新葉和歌集・巻第十六・雑歌上・1051) 私の袖が涙で濡れている、いつの間にか春の月が(涙で)霞んで見えるのを(霞むのは)春の月の習性と思って見よ…

桜と雨と(6)

題しらず 今いまはよも枝(えだ)にこもれる花もあらじ木(こ)の芽めはるさめ時を知しる比(ころ) (後醍醐天皇御製・新葉和歌集・巻第二・春歌下・82) 今はまさか枝に籠もっている花もあるまい、木の芽が膨らむ(時期の)春雨によってその時を知る比なの…

桜と雨と(5)

三月つごもり許(ばかり)に、桜さくらの花を、雨の降ふる日、人のもとへ折おりてたてまつる 濡ぬれつゝぞしひて折(をり)つる桜花さくらばな春はいく日かもあらじと思おもへば (在原業平・業平集・5) 雨に濡れながらむやみに折った桜花、春はもうあと何…

桜と雨と(4)

百首歌の中に 花は散りその色となくながむればむなしき空に春雨ぞ降る (式子内親王・新古今和歌集・巻第二・春歌下・149) 桜の花は散り、何ということもなくぼんやりと眺めると、むなしい空に春雨の降ることよ 和歌引用 峯村文人(校注・訳)(1995)『新…

桜と雨と(3)

春雨の降るは涙かさくら花散るを惜しまぬ人しなければ (大友黒主・古今和歌集・巻第二・春歌下・88) 春雨が降るのは涙だろうか、桜の花が散るのを残念に思わない人はいないのだから >副助詞「し」がなんとなく好き。 和歌引用 小沢正夫・松田成穂(校注・…

桜と雨と(2)

花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに (小野小町・古今和歌集・巻第二・春歌下・113) 花の色は色褪せてしまったな、むなしく長雨が降り続くうちに 私(の容姿)もすっかり衰えてしまったな、むなしく私がもの思いにふけっている間…

桜と雨と(1)

雨降れば色去りやすき花桜薄き心も我思はなくに (貫之集・巻第五・604) 雨が降ると色褪せやすい花桜、そんな花桜の色のように薄い心であなたのことを思っているわけではないのに >訴えるような感が胸に染みたので、記念すべき一首目に。 和歌引用 田中喜…